IoT業界の一翼を担う新たな重要拠点として

 明治時代に国内紡績業のリーディングカンパニーとして礎を築き、大分県ともゆかりの深い富士紡ホールディングス株式会社。時代の変化に柔軟に対応しながら多角的な発展を遂げてきた同社は現在、「研磨材事業」「化学工業品事業」「生活衣料事業」「化成品事業」の4事業を展開しています。半導体業界で必須とされる研磨材の製造を手がけるフジボウ愛媛株式会社が、大分市大在埠頭に進出するまでの経緯を小野澤 孝大分工場長に聞いてきました。

成長著しい「研磨材事業」で高い業界シェアを誇る

御社が取り組んでいる事業についてお聞かせください。

 フジボウ愛媛では超精密加工用研磨材と機能性不織布の製造・販売を行っています。当社は富士紡ホールディングス株式会社の柱となる4事業の中の「研磨材事業」を担っており、愛媛県西条市の壬生川工場を本社工場とし、富士紡発祥の地である静岡県の小山工場、愛知県の小坂井工場、海外では台湾に台南工場を有しており、大分工場は国内4番目の拠点として2020年10月に操業を開始しました。

各工場で作られた製品はどのような現場で使われているのですか。

 当社の研磨材は、スマートフォンやタブレット端末、液晶テレビに不可欠な液晶ガラス、記憶装置用ハードディスク、半導体の基板となるシリコンウエハー、半導体デバイスなど、多くの精密研磨材分野で使われています。当社の場合、ウレタンの樹脂フィルムを単独で製造ができるため自由自在な組み合わせが可能であり、顧客のポリシングプロセスに沿ってカスタマイズできる点が高く評価され、国内外のメーカーから注文をいただいています。研磨パッドにはソフトタイプ、ハードタイプ、不織布タイプなどの種類があるのですが、大分工場はもっとも生産量が多いソフトタイプの研磨パッドを製造しており、本社壬生川工場の1/3の生産能力を保持する重要な役割を担い、現在は約100社の取引先から認定を受け、様々な客先に出荷しています。

BCP対策の一環として大分進出を決定

どのような経緯で大分に進出されたのですか。

 取引先から本社工場に対するBCP対策への要求が高まっていたことが第一に挙げられます。半導体業界は地政学的なリスクや増加傾向にある自然災害による供給不安を解消するためBCPを積極的に推進しており、取引先に安心して弊社製品を購買していただくための新たな拠点の設置が急務でした。これに加えて半導体需要が高まるなか、取引先においては新規工場の新設・増設計画が進んでおり、受注量増加に対応できる供給能力の増強も求められていました。そこで弊社では早々に各自治体が誘致している土地の状況、企業立地に対する補助制度、ハザードマップ情報を見ながら地震・津波のリスク度合い、本社工場との距離や交通体系、そして半導体関連企業が必要とする工業用水の確保など、あらゆる角度から候補地を絞り込む作業に取り組みました。そのうえで現地訪問を繰り返した結果、大分進出を決めたのです。

実際に進出後の感想をお聞かせください。

 弊社工場がある6号地は大野川の豊富な工業用水が利用でき、エネルギー面でもユーティリティが整備されています。物流面に関しても東九州自動車道とのアクセスが良好で、弊社が立地する大分港大在埠頭ではRORO船のターミナルの建設も進んでいます。また大分市は県庁所在地であるため都市機能が充実しており、人材採用面でも有利に働いています。フジボウグループとしても西大分で紡績事業を手がけていたゆかりの地であり(現在はフジケミ株式会社大分工場としてプラスチック製品を製造・販売)、温暖な気候と穏やかな県民性も好印象に感じています。

立地環境以外に感じているメリットはありますか。

 九州は「シリコンアイランド」という別名があるほど早くから半導体産業が盛んな地です。台湾積体電路製造(TSMC)の熊本進出に伴う半導体関連企業の大型投資も相次いでおり、弊社の研磨材事業拡大にも大きな期待を持っています。大分県内においては業界関係企業で組織する「大分県LSIクラスター形成推進会議」の会員にも加入させて頂いておりますので、今後は積極的に連携と競争による地域活力の創造にも貢献したいと考えています。また県内には半導体業界だけでなく鉄鋼、石油、化学、電気、自動車、造船などの主力企業が進出しています。大分市東部地区の各進出企業のセンター長クラスが集まる会合も毎月行われており、積極的な情報交換の場となっています。

広大な敷地を活かして地域経済の活性化に貢献したい

雇用面はいかがでしょう。

 2024年時点で大分工場の従業員数は49名で、地元高校や高専、大学のほか、九州各地からの採用も続いています。皆さん能力的にも大変優秀で礼儀正しく真面目であり、大分工場がスタートして以来、ひとりも辞めることなく働いてくれています。給与や福利厚生など待遇面では地元他社と比較しても遜色ないレベルだと思いますが、時代の先端をいく半導体業界に携わる仕事に将来性を感じて応募してくる学生も多いようです。ただし30代以下が約5割と若年層が多いので、UターンやIターンによる中途採用を含め中間層の採用を増やし、管理面の強化につなげていきたいと考えています。現状の勤務体系は2交代制ですが、いずれは多忙時に対応できるよう3交代24時間操業も計画中です。49名のうち女性は9名で、日中の時間帯勤務で検査工程や品質保証部門、総務経理部門に配置しています。人材採用面に関しては大分県からもサポートしていただいており、感謝しています。

これから取り組む計画があればお聞かせください。

 愛媛県の本社工場のBCP工場としての機能を確実に果たすと共に、約8haの敷地を活用しながら工場規模を順次拡大していく計画です。従来の取引先に加え、新規顧客開拓を目的にCMP(化学的機械的研磨)用途のサンプルも出荷し、今後の事業拡大に取り組んでいます。弊社の進出が大分の地域経済活性化と雇用拡大に貢献できるよう努めていきたいと考えています。

企業データ

社名 フジボウ愛媛株式会社
本社 壬生川工場 愛媛県西条市大新田272 
TEL:0898-64-2350
大分工場

大分県大分市大字青崎11-2 
TEL:097-529-7925

代表者

取締役社長 望月吉見 (富士紡ホールディングス取締役上席執行役員)

大分工場 執行役員工場長 小野澤 孝                                                                          

資本金 4億5,000万円(富士紡ホールディングス 100%子会社)
事業内容 超精密加工用研磨材及び機能性不織布の製造・販売
設立 1977年5月
操業開始 2020年10月22日
社員数 49名 (新規雇用者数21名)
ホームページ 会社概要ページ(外部リンク)